車のブレーキは「止まる」という最も重要な性能を支える部品です。
その中でもブレーキパッドは消耗品であり、定期的な交換が必要になります。
ブレーキは重要保安部品に指定されており、整備工場では交換作業を行った際に「臨時分解整備記録簿」へ記載するほど重要な作業です。
ただし、一般ユーザーが自分で交換すること自体は法的に問題ありません。
しかし、作業方法を間違えるとブレーキ性能が大きく低下し、重大事故につながる危険もあります。
この記事では、元整備士としての経験をもとに、
- ブレーキパッド交換のやり方
- 作業時の重要ポイント
- 実際にあった組み付け不良の事例
- 初心者が注意すべきポイント
をわかりやすく解説します。
今回は、スズキの軽自動車「アルト」を例に説明していきます。
ブレーキパッド交換は自分でできる?
ブレーキパッド交換は、必要な工具と正しい手順を理解していれば、初心者でもDIYで交換することは可能です。ただし、ブレーキは車の安全性に直結する重要保安部品のため、「簡単そうだから」という理由だけで作業するのはおすすめできません。
例えば、キャリパーボルトの締め付け不足やブレーキパッドの組み付けミスは、異音やブレーキの効きが悪くなる原因となり、最悪の場合は重大な事故につながる恐れがあります。
そのため、以下のような方であればDIYでの交換に向いています。
- ジャッキアップ作業の経験がある
- トルクレンチを使用して規定トルクで締め付けができる
- 作業手順を理解し、焦らず慎重に作業できる
- 作業後のブレーキ点検を確実に実施できる
一方で、次のような場合は整備工場へ依頼することをおすすめします。
- 初めて車の整備を行う
- 必要な工具が揃っていない
- 電動パーキングブレーキ(EPB)搭載車など、専用の作業が必要な車種である
- 少しでも作業に不安を感じる
ブレーキパッド交換は、正しく作業すればDIYでも十分可能ですが、安全性を最優先に考えることが何より重要です。無理に自分で作業せず、不安がある場合は整備工場へ依頼することも選択肢の一つです。
ブレーキパッド交換にかかる費用
ブレーキパッド交換をDIYで行う場合は、ブレーキパッドの部品代と必要な工具代がかかります。すでに工具を持っている場合は、業者へ依頼するよりも費用を抑えられることが多いでしょう。
一方で、初めてDIYに挑戦する場合は、トルクレンチやジャッキ、リジッドラック(ウマ)、ディスクブレーキピストンツールなどを揃える必要があるため、初期費用は高くなります。
おおよその費用の目安は以下のとおりです。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| ブレーキパッド(左右1セット) | 3,000~15,000円 |
| ディスクブレーキピストンツール | 1,500~5,000円 |
| トルクレンチ | 3,000~10,000円 |
| ジャッキ・リジッドラックなど | 5,000円~ |
| 業者へ依頼した場合の交換工賃 | 6,000~15,000円程度(部品代別) |
すでにDIY整備用の工具を揃えている方であれば、部品代だけで交換できるため、工賃を節約できます。一方、初めて工具を一式購入する場合は、業者へ依頼したほうが結果的に安く済むケースもあります。
ただし、工具はブレーキパッド交換だけでなく、タイヤ交換やオイル交換など、ほかのDIY整備にも活用できます。今後も自分で車のメンテナンスを行う予定がある方であれば、工具への投資は長期的に見て十分価値があるでしょう。
なお、ブレーキは車の安全性に直結する重要保安部品です。費用だけで判断せず、自分の整備経験や工具の有無も考慮したうえで、DIYで行うか整備工場へ依頼するかを判断することをおすすめします。
ブレーキパッド交換に必要な工具
ブレーキパッド交換は、基本的な整備工具だけでなく、ブレーキ専用の工具も必要です。無理に代用品で作業すると部品を傷めたり、ブレーキの性能低下につながる恐れがあるため、事前に必要な工具を準備してから作業を始めましょう。
| 工具 | 必要度 | 用途 |
|---|
| フロアジャッキ | 必須 | 車両を持ち上げる |
| リジッドラック(ウマ) | 必須 | ジャッキアップした車両を安全に支える |
| ホイールナットレンチ | 必須 | タイヤの脱着 |
| ラチェットハンドル・ソケット | 必須 | キャリパーボルトの脱着 |
| トルクレンチ | 必須 | 規定トルクでボルトやホイールナットを締め付ける |
| ディスクブレーキピストンツール | 必須 | キャリパーピストンを均等に押し戻す |
| ブレーキグリス | 推奨 | パッドの摺動部や接触部へ塗布する |
| パーツクリーナー | 推奨 | ブレーキダストや古いグリスを洗浄する |
ブレーキパッド交換の基本手順
ブレーキパッド交換の流れは以下の通りです。
- 車をジャッキアップする
- タイヤを外す
- ブレーキキャリパーを外す
- 古いブレーキパッドを外す
- キャリパー周辺を清掃する
- リザーブタンクの液面を確認する
- キャリパーピストンを押し戻す
- 新品パッドへグリスを塗布する
- 新品パッドを取り付ける
- キャリパーを組み付ける
- ブレーキペダルを踏んで踏みしろを確認する
- ブレーキフルード量を確認する
- タイヤを取り付ける
- ホイールナットの締め付けを確認する
ディスクブレーキピストンツールは必ず用意しよう
ブレーキパッド交換では、新品の厚いブレーキパッドを取り付けるために、キャリパーピストンを押し戻す作業が必要になります。
このとき、ウォーターポンププライヤーやバールなどで無理に押し戻そうとすると、ピストンやダストブーツを傷めたり、均等に力が掛からず故障の原因になることがあります。
そのため、元整備士としては専用のディスクブレーキピストンツールを使用することをおすすめします。安全に作業できるだけでなく、作業時間も短縮できます。
ディスクブレーキピストンツールの種類や選び方、使い方については、以下の記事で詳しく解説しています。
↓
ブレーキパッド交換に必要なピストン戻し工具の選び方と使い方を元整備士が解説
車をジャッキアップしてタイヤを外す
まずは車を安全にジャッキアップし、タイヤを取り外します。
この工程は基本的にタイヤ交換と同じです。
ジャッキアップポイントを間違えると車体損傷や転倒事故の危険があるため注意しましょう。
※詳細はタイヤ交換の記事を参照してください。
ブレーキキャリパーを外す
スズキアルトの場合、ブレーキキャリパーは上下2本のボルトで固定されています。
ただし、ブレーキパッド交換だけであれば、下側のボルト1本を外せば十分です。
ボルトを外したら、キャリパーを持ち上げるように開きます。
この時、キャリパーをぶら下げたままにするとブレーキホースへ負担が掛かります。
長めのS字フックなどを使い、サスペンションへ吊り下げておくと安全かつ作業しやすくなります。

古いブレーキパッドを外して清掃する
ブレーキパッドを外したら、キャリパーやパッドマウント周辺を清掃します。
本来はエアガンでブレーキダストを吹き飛ばすのが理想ですが、家庭では難しい場合もあります。
その場合はウエスなどで丁寧に汚れを拭き取りましょう。
ブレーキダストが大量に残っていると、パッドの動きが悪くなり異音や片減りの原因になります。
ガレージコンプレッサーはブレーキパッド交換に必須ではありませんが、あるとDIY整備全般で役に立つものです。
興味がある方はこちらのnoteの記事に詳しく書いていますので参考にしていただければと思います
↓
自宅に静音式ガレージエアーコンプレッサーを設置しました
リザーブタンクの液面を確認する

ここは非常に重要なポイントです。
新品のブレーキパッドは厚みがあるため、キャリパーピストンを押し戻さなければ取り付けできません。
しかし、ピストンを戻すとブレーキフルードがリザーブタンク側へ戻ります。
通常は、パッド摩耗に合わせて液面も下がっているため問題ありません。
ただし、過去にブレーキフルードを継ぎ足していた場合は注意が必要です。
液面がMAX近くまで入った状態でピストンを戻すと、フルードがあふれてしまいます。
最悪の場合、エンジンルーム内の塗装を傷める可能性もあります。
液面が高い場合は、スポイトなどで事前に吸い取っておきましょう。
キャリパーピストンを押し戻す
キャリパーピストンは専用工具を使うと安全かつ確実です。
おすすめは「ディスクブレーキピストンツール」です。
ディスクブレーキピストンツールの選び方と使い方についての記事はこちら
ディスクブレーキピストンツールは、ピストンを均等に押し戻せるため、無理な力を掛けずに作業できます。
マイナスドライバーなどで無理やりこじる方法は、部品損傷の原因になるためおすすめできません。

新品ブレーキパッドへグリスを塗布する
新品パッドを取り付ける前に、専用のパッドグリスを塗布します。
塗布する主な箇所は以下です。
- シムの当たり面
- ピストン接触面
- パッドとマウントの接触部

これにより、ブレーキ鳴きや動作不良を防ぐことができます。
ただし、絶対に注意しなければならないのが「ディスクローターへグリスを付着させないこと」です。
ローターや摩擦面へグリスが付着すると、ブレーキ性能が大幅に低下します。
作業中は手についたグリスにも注意しましょう。
新品ブレーキパッドを取り付ける
新品パッドを正しい位置へ組み付けます。
この時、パッドが斜めに入っていないか、マウントへしっかり収まっているかを必ず確認してください。
組み付け不良は重大事故につながる可能性があります。
実際にあった組み付け不良の事例
昔、新人整備士がブレーキパッド交換を行った車を試運転した時のことです。
ブレーキを踏むと、ペダルに「フワフワ感」がありました。
まるでブレーキラインへエアが混入したような感触です。
しかし、その車ではフルード交換作業は行っていませんでした。
違和感を覚えて再確認したところ、ブレーキパッドが斜めに組み付けられていました。
つまり、マウントへ正しく収まっていなかったのです。
組み直したところ症状は完全に改善しました。
このように、ブレーキパッドの組み付け不良は、
- ブレーキ性能低下
- ペダルタッチ悪化
- パッド脱落
などにつながる危険があります。
「簡単そうだから」と油断せず、確実に組み付けることが重要です。
ブレーキペダルを踏んで踏みしろを出す
ブレーキパッド交換後は、必ずブレーキペダルを数回踏みます。
これは押し戻したピストンを正常位置へ戻すためです。
この作業を忘れると、最初のブレーキ時にペダルが奥まで入ってしまいます。
実際、私自身も新人時代に一度やらかしたことがあります。
車が思ったより止まらず、本当に怖い思いをしました。
交換後は必ず、
ペダルの高さ
踏み応え
違和感の有無
を確認してください。
ブレーキフルード量を確認する
最後にリザーブタンクの液量を確認します。
理想は、液面が「MAX(アッパーレベル)」付近にある状態です。
新品パッド時に適正量へ合わせておくことで、
- 今後のパッド摩耗状態
- フルード漏れ
- 異常な液面低下
などを判断しやすくなります。
タイヤを取り付けて作業完了
最後にタイヤを取り付けます。
ホイールナットは必ず規定トルクで締め付けましょう。
締め忘れや締め付け不足は大変危険です。
作業後は低速で試運転を行い、
- 異音
- ブレーキの効き
- ペダルフィーリング
に異常がないか確認してください。
まとめ|ブレーキパッド交換は「簡単そうで危険な作業」
ブレーキパッド交換は、作業内容だけ見ると比較的シンプルです。
しかし、ブレーキは命に関わる重要保安部品です。
特に重要なのは以下のポイントです。
- ピストン戻し前に液面確認
- グリスをローターへ付けない
- パッドを確実に組み付ける
- 作業後にペダルを踏んで踏みしろを出す
これらを怠ると、重大事故につながる危険があります。
DIYに慣れていない方は、自動車整備に詳しい人やプロ整備士に教わりながら作業するのがおすすめです。
少しでも不安がある場合は、無理をせず整備工場へ依頼しましょう。
