車のオーバーヒートといえば、
- ヘッドガスケット抜け
- サーモスタット故障
- ウォーターポンプ不良
などを思い浮かべる人が多いと思います。
私自身も整備士時代、同じように考えていました。
しかし実際には、「ヘッドガスケット抜けだ」と確信して修理した結果、原因はまったく別だった……という苦い経験があります。
今回は、実際に私が経験した「非常に判断が難しかったオーバーヒート事例」を失敗談として紹介します。
同じような症状で悩んでいる人の参考になれば幸いです。
車の症状
症状はかなり特殊でした。
- 暖気後、50km/h前後で20分ほど巡航すると水温計が上昇
- 水温計は徐々に赤ライン近くまで上がる
- しかしアクセルを踏み込んで加速すると水温計が下がる
- スピードを上げると水温は正常位置で安定
- アイドリングでは長時間放置しても正常
- 50km/h付近の一定走行時だけ症状が出る
つまり、
「低回転・中負荷時だけオーバーヒートする」
という非常に厄介な症状でした。
冷却水漏れは無し
まず確認したのは冷却水漏れです。
しかし、
- ラジエター本体
- ホース類
- ウォーターポンプ周辺
- ヒーター系統
を点検しても外部漏れはありません。
リザーバータンクの量も正常でした。
この症状から考えた原因
この症状で最大のヒントになるのが、
「アクセルを踏むと水温が下がる」
という点です。
エンジン回転数が上がることで水温が下がるということは、
「低回転時に冷却水の循環量が不足している」
可能性が高いと考えました。
1. サーモスタット不良を疑う
まず疑ったのはサーモスタットです。
サーモスタットが開かなければ冷却水は循環せず、水温は上昇します。
ただし普通なら、
- 車速に関係なくオーバーヒート
- アイドリングでも水温上昇
になるはず。
しかし今回は条件付きで症状が出るため、「動きが悪いだけかもしれない」と考え、とりあえず新品交換しました。
結果は変化なし。
2. ウォーターポンプ不良を疑う
次に疑ったのはウォーターポンプです。
特に多いのが、
- インペラの腐食
- 樹脂製インペラの空転
- 羽根欠け
などです。
低回転時だけ流量不足になると、今回の症状と一致します。
しかし、サーモスタット開弁後にラジエターキャップを外し、エンジン回転を上げて冷却水の流れを確認すると、水流は正常に見えました。
そのためウォーターポンプは正常と判断しました。
3. ヘッドガスケット抜けを疑う
次に強く疑ったのがヘッドガスケット抜けです。
ヘッドガスケットが抜けると、
- 排気ガスが冷却水へ混入
- エア噛み状態になる
- 局所的に冷却不能になる
ことでオーバーヒートを起こします。
しかも以前、私はまったく似た症状の車を修理した経験があり、その時の原因がシリンダーヘッド歪みによるヘッドガスケット抜けでした。
その経験があったため、
「今回も間違いなくヘッドガスケットだ」
と思い込んでしまいました。
*今だから言えることですが、このときにヘッドガスケットリークテスターという工具を持っていればこの思い込みが間違いだったという判断ができたのですが、当時はそのような工具があることを知りませんでした。
ヘッドガスケットリークテスターについての詳しい内容は「ヘッドガスケットが抜けた時の見極め方」の記事で解説しています。

4. ラジエター内部詰まりの可能性
もちろんラジエター詰まりも考えました。
ラジエター内部にスケールや錆が堆積すると、冷却水の流量が低下します。
すると、
- 低回転では流量不足
- 高回転では押し流せる
という状態になることがあります。
ただ、アッパーホースとロアーホースの温度差を確認しても決定的な異常はありませんでした。
少し温度差があるかな……程度。
ここで「ラジエターではない」と判断してしまったのが失敗でした。
ラジエターキャップも交換
念のためラジエターキャップも点検。
- 加圧保持
- ガスケット状態
- バルブ作動
に問題はありませんでしたが、新品交換しました。
しかし症状は変わりません。
そしてヘッドガスケット交換へ
ここまでの流れで、私は完全にヘッドガスケット抜けを疑っていました。
理由は単純です。
「以前、同じ症状だった車の原因がヘッドガスケットだったから」
です。
つまり、過去の経験に引っ張られてしまったわけです。
そして迷わずヘッドガスケット交換。
シリンダーヘッドも測定しましたが歪み無し。
しかし——
結果は直りませんでした。
最終的な原因はラジエター内部詰まり
ここまで来ると消去法です。
- サーモスタット交換済み
- ラジエターキャップ交換済み
- ヘッドガスケット交換済み
- ウォーターポンプも正常そう
残るのはラジエターしかありません。
そこでラジエター本体を新品交換したところ……
症状は完全に改善しました。
原因はラジエター内部の詰まりだったのです。
なぜ判断を間違えたのか
今回の失敗で痛感したのは、
「同じ症状=同じ原因とは限らない」
ということです。
整備士は経験が重要な仕事ですが、その経験が強い先入観になることがあります。
実際、今回の私は、
「以前も同じ症状だった」
↓
「だから今回もヘッドガスケット」
と決めつけてしまっていました。
結果的に、その思い込みが診断を遠回りさせてしまったのです。
オーバーヒート診断は“思い込み”が危険
オーバーヒートは、
- 水温計の動き
- エンジン負荷
- 回転数
- 車速
- 冷却水の流れ
などを総合的に見て判断する必要があります。
特に今回のような、
- 特定条件だけ発生
- 加速すると改善
- アイドリングでは正常
という症状は診断が非常に難しい部類です。
だからこそ、
「以前こうだったから今回も同じ」
という先入観を捨てることが重要だと学びました。
まとめ
今回のオーバーヒートの原因は、最終的にラジエター内部詰まりでした。
しかし私は、
- 過去の経験
- 症状の類似性
に引っ張られ、ヘッドガスケット抜けだと決めつけてしまいました。
結果として、
- ヘッドガスケット交換
- 無駄な作業
- 遠回り診断
という失敗につながりました。
整備では経験も大切ですが、「経験を疑うこと」も同じくらい大切なのかもしれません。
エンジントラブル全般の記事は「車のエンジントラブル完全ガイド」を参照してください。

