「車を発進させると、リヤからギシギシという音がする」
「段差を越えても音は出ないのに、発進するときだけ鳴る」
「車を止めて揺すってみても音が出ない」
このような、発生条件が限定された異音は、原因を特定するのが非常に難しいことがあります。
整備士としてディーラーの現場にいた頃、実際にこのような症状で入庫した車がありました。
リヤの足回りから聞こえる「ギシギシ」という音だったため、最初はサスペンションブッシュやショックアブソーバーなどを疑いました。
ところが、段差を走行しても音は出ず、停車した状態で車体を揺すっても再現しません。
さらにリフトアップして下回りを点検しても、異常を確認できませんでした。
最終的に原因として判明したのは、**リヤサブフレームの溶接部分に入った微細な亀裂(クラック)**でした。
今回は、私が実際に経験した「発進時だけリヤからギシギシ音がする」という異音トラブルについて、どのように原因を絞り込んでいったのかを紹介します。
同じような異音で悩んでいる方や、異音診断の参考にしたい方はぜひ最後まで読んでみてください。
発進時だけリヤから「ギシギシ」と音がする
お客様からの訴えは、
「車を発進させると、後ろからギシギシ音がする」
というものでした。
実際に車両を動かして確認すると、確かにリヤ側から「ギシ…ギシッ…」というきしみ音が聞こえます。
特徴的だったのは、車が動き始める瞬間に音が出ることでした。
前進するときだけではありません。
バックに入れて後退するときにも、同じように発進の瞬間に「ギシギシ」と音がします。
一度走り出してしまえば音はほとんど出ません。
この時点では、
「サスペンションのブッシュか、ショックアブソーバー周辺がきしんでいるのでは?」
と考えるのが自然です。
しかし、点検を進めていくと、一般的な足回りの異音とは少し違うことが分かってきました。
足回りの異音なのに、なぜか再現しない
リヤサスペンションから「ギシギシ」「ゴトゴト」などの音がする場合、代表的な原因として次のようなものが考えられます。
- サスペンションアームのブッシュの劣化や亀裂
- ショックアブソーバーやアッパーマウントの異常
- コイルスプリングやスプリングシート周辺の異常
- スタビライザーリンクやスタビライザーブッシュの劣化
- サスペンション取り付け部の緩みや損傷
そこで、まずは一般的な足回りの異音診断から始めました。
ところが、今回の車両には3つの気になる特徴がありました。
① 段差を越えても音が出ない
通常、サスペンションのブッシュやマウントなどに問題がある場合、段差や路面の凹凸を通過したときにも異音が発生することがあります。
そこで、実際に段差を走行して確認しました。
しかし、サスペンションが大きく上下しているにもかかわらず、問題の「ギシギシ」という音は出ません。
発進するときにはあれほどはっきり聞こえるのに、段差では無音です。
② 停車状態で車体を揺すっても音が出ない
次に、車を停止させた状態でリヤ側の車体を上下に揺すってみました。
サスペンションをできるだけ大きくストロークさせても、異音は発生しません。
左右方向にも揺すってみましたが、やはり音は出ませんでした。
③ リフトアップして点検しても異常が見つからない
さらに車両をリフトアップし、リヤサスペンション周辺を詳しく点検しました。
各アームやブッシュ、取り付け部などを確認し、必要な箇所を手で動かしたり、工具を使って状態を確認したりしました。
しかし、明らかなガタや損傷は見つかりません。
リフト上でも異音は再現しませんでした。
ここで、通常の「サスペンションが上下するときに鳴る異音」とは、少し違うのではないかと考えるようになりました。
発進時だけ音が出ることが診断のヒントになった
ここで、異音が発生するときの条件をもう一度整理してみました。
- 前進するときに音が出る
- バックで発進するときにも音が出る
- 一度走り出すと音はほとんど出ない
- 段差を越えても音が出ない
- 停車状態で車体を揺すっても音が出ない
- リフトアップした状態でも再現しない
- 音はリヤの中央付近から聞こえる
この条件から考えると、サスペンションが単純に上下するときではなく、車が発進するときに発生する駆動力によって、リヤの足回りや車体に荷重が加わったときに音が出ている可能性があります。
特に気になったのが、
「前進でもバックでも発進時に音が出る」
という点でした。
前後どちらに車を動かしても音が出るということは、単純なサスペンションの上下運動だけでは説明しにくい症状です。
そこで、リヤサスペンションを支えているサブフレーム周辺に注目しました。
リヤサブフレームとは?
リヤサブフレームは、リヤサスペンションのアーム類やデファレンシャルなどを車体側に取り付けるための骨格部品です。
車種によって構造は異なりますが、リヤサスペンションやデフをまとめて支持する重要な部品の一つです。
特に後輪駆動車では、エンジンからプロペラシャフトを通って伝わった駆動力がデファレンシャルを介して左右の後輪へ伝達されます。
その際、デフやサスペンションを介してサブフレームにもさまざまな方向の荷重が加わります。
そのため、サブフレームの溶接部や取り付け部に何らかの損傷があると、発進時など大きな荷重が加わった瞬間だけ異音が発生する可能性があります。
「もしかすると、サブフレームそのものに何か異常があるのではないか?」
そう考え、さらに詳しく点検することにしました。
デフを取り外して、サブフレームを詳しく点検
サブフレームの一部は、下から覗いただけでは確認しにくい場所があります。
特にデフや周辺部品が取り付いていると、溶接部分や上側の構造が隠れてしまいます。
そこで、必要な部品を取り外し、サブフレームの状態を詳しく確認することになりました。
デフを取り外してサブフレーム周辺を露出させ、ライトを当てながら溶接部分を一つずつ確認していきます。
汚れや油分を清掃し、溶接部を細かく観察していくと、
「これはひょっとしてクラックでは?」
と思われる、ごく小さな筋状の亀裂を発見しました。
一見すると塗装のひび割れにも見えるほど小さなものでした。
しかし、発進時にだけ異音が発生するという症状と合わせて考えると、非常に気になる箇所です。
さらに詳しく確認した結果、サブフレームの溶接部分に入った亀裂が、今回の異音の原因と判断しました。
なぜサブフレームの亀裂で「ギシギシ」と音がしたのか?
今回の異音は、次のようなメカニズムだったと考えられます。
- 発進時に駆動力が後輪へ伝わる
- デフやサスペンションを介してサブフレームに荷重が加わる
- クラックの入った部分が荷重によって微小に動く
- その部分で金属や周辺部材がわずかに動き、きしみ音が発生する
- その音がサブフレームや車体を伝わり、リヤから「ギシギシ」と聞こえる
一方、段差を乗り越えるときは主にサスペンションが上下方向へストロークします。
今回のクラック部分は、こうした入力では異音が発生するほど動かなかったため、段差では音が出なかったと考えられます。
また、停車した状態で人が車体を揺すった程度では、実際の走行時に発生する駆動力と同じ条件を作ることができません。
これが、
「走って発進すると鳴るのに、停車状態では何をしても鳴らない」
という非常に診断しづらい症状につながっていました。
サブフレームの亀裂を修理
原因が特定できたため、修理方法を検討しました。
今回の車両では、損傷状態などを確認したうえで、サブフレームを取り外して溶接による修理・補強を行いました。
ただし、サブフレームは車種によって重要な構造部品となっている場合があります。
そのため、サブフレームにクラックが見つかったからといって、すべての車両で溶接修理が適切とは限りません。
損傷の位置や程度、車両メーカーの修理基準などを確認し、サブフレームそのものを交換する必要があるケースもあります。
今回の作業では、サブフレームを車両から取り外して損傷箇所を確認し、適切な下地処理を行ったうえで修理しました。
その後、防錆処理を行い、取り外した部品を復元します。
サブフレーム脱着では、車種によってデフ、プロペラシャフト、ドライブシャフト、サスペンションアーム、ブレーキ関連部品などの脱着が必要になる場合があります。
組み付け時には各部を規定トルクで締め付け、必要に応じてホイールアライメントも確認します。
今回の修理費用はいくら?保証修理だったため請求は0円
「サブフレームに亀裂が入っていたなら、修理費用はいくらかかったの?」
と気になる方もいると思います。
今回の車両については、幸いにも保証期間内の車両だったため、修理費用はお客様への請求なしの保証修理となりました。
そのため、私自身も今回の修理でお客様が実際に支払った金額をお伝えすることはできません。
ただし、もし保証期間が終了していて有償修理だった場合は、かなり高額な修理になっていた可能性があります。
サブフレームの溶接修理なら?
今回のようにサブフレームを車両から取り外し、亀裂部分を修理して再び取り付ける場合、単純に「亀裂を溶接するだけ」という金額にはなりません。
サブフレームを降ろすためには、車種によってデファレンシャルやプロペラシャフト、ドライブシャフト、サスペンションアーム、ブレーキ関連部品などを取り外す必要があります。
さらに、
- サブフレームの脱着
- 亀裂部分の清掃・塗装剥離
- クラック部分の開先加工
- 溶接修理
- 防錆処理
- サブフレームの再取り付け
- 各部の締め付け
- 必要に応じたホイールアライメント調整
などの作業が必要になります。
そのため、現在の一般的な整備工賃を考慮すると、サブフレームの脱着を含めた溶接修理では10万~20万円程度が一つの目安になると考えられます。
ただし、これはあくまで概算です。
工場の工賃設定、車両の状態、固着や錆の有無、損傷の程度などによって金額は大きく変わります。
サブフレームそのものを交換する場合は?
もし溶接修理ではなく、サブフレームそのものを交換する場合は、さらに費用が高くなる可能性があります。
サブフレームの部品代に加えて、取り外し・取り付け工賃、必要な関連部品、アライメント調整などが必要になるためです。
古い車の場合は、純正部品の供給状況によって新品部品が入手できないケースや、中古部品を使用するケースもあります。
そのため一概には言えませんが、サブフレーム交換まで行う場合は20万~40万円以上になる可能性もあります。
特に、ボルトの固着や錆、周辺部品の追加交換などが発生すると、さらに費用が増えることがあります。
修理費用の目安
| 修理内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| サブフレーム脱着+溶接修理 | 10万~20万円程度 |
| サブフレーム交換 | 20万~40万円以上 |
| 追加部品・アライメントなど | 状況により別途 |
※上記はあくまで一般的な整備工賃などから考えた概算であり、実際の修理費用を保証するものではありません。車種、工場、部品価格、車両の状態によって大きく異なります。
今回の車両は保証修理だったため、お客様の負担はありませんでした。
しかし、もし保証期間が終了していたとしたら、原因が小さな「ギシギシ」という異音だったとしても、サブフレームの脱着を伴う修理となれば、決して安い修理ではなかったと思います。
修理費が高額になる場合は、売却という選択肢も検討してみましょう。
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修理後、あの「ギシギシ音」は消えた
すべての作業を終え、車両をリフトから下ろして再度試運転を行いました。
まず前進で発進。
「……音がしない。」
続いてバックで発進。
「……こちらも音がしない。」
何度か発進・後退を繰り返して確認しましたが、修理前に発生していた「ギシギシ」という異音は再現しません。
さらに実際の走行条件に近い状態でも確認しましたが、異音は発生しませんでした。
最初は原因がまったく分からなかった異音でしたが、最終的にはサブフレームの微細な溶接亀裂が原因だったことが分かりました。
今回の異音診断で重要だったポイント
今回のトラブルで特に重要だったのは、「どんなときに音が出るのか」を細かく切り分けたことです。
単純に「リヤからギシギシ音がする」という情報だけなら、サスペンションブッシュやショックアブソーバーなど、一般的な足回り部品から点検していくことになります。
しかし、
- 発進時だけ音が出る
- 前進でもバックでも発生する
- 段差では発生しない
- 車体を揺すっても再現しない
- リフト上でも再現しない
という条件が分かると、原因を探す方向が変わってきます。
異音診断では、単に「どこから音が聞こえるか」だけでなく、
「どんな動きをしたときに音が出るのか」
を確認することが非常に重要です。
発進時だけリヤからギシギシ音がする場合に考えられる原因
今回のような症状では、サブフレームだけが原因とは限りません。
車種や構造によって、次のような部品も点検対象になります。
| 原因 | 発生しやすい条件 |
|---|---|
| サスペンションブッシュ | 段差・発進・制動時など |
| スタビライザーブッシュ | 段差や左右の揺れ |
| ショックアブソーバー・マウント | 段差・車体の上下動 |
| スプリング・シート | サスペンションストローク時 |
| サスペンションアーム取り付け部 | 発進・制動・段差など |
| デフ・デフマウント | 発進・加減速時 |
| サブフレーム取り付け部 | 発進・制動・荷重移動時 |
| サブフレームの亀裂・溶接部の損傷 | 発進など大きな荷重が加わったとき |
このように、同じ「ギシギシ」という音でも原因は一つではありません。
まとめ:異音は「音」だけでなく「発生条件」を見る
今回のような異音は、音だけを聞いて原因を判断するのが非常に難しいケースです。
特に、
「段差では音が出ないのに、発進時だけギシギシ鳴る」
という場合は、サスペンションが上下するときの異音だけでなく、駆動力や制動力によって荷重が加わる部分にも目を向ける必要があります。
今回のトラブルから分かった重要なポイントをまとめると、
- 発進時だけ異音が出る場合は、駆動力による荷重を考える
- 前進とバックの両方で発生するか確認する
- 段差や車体を揺すったときに音が出るか確認する
- リフト上で再現しないからといって、異常がないとは限らない
- 音が聞こえる場所だけでなく、荷重が伝わる経路を考える
- サブフレームや取り付け部など、骨格側の損傷も候補に入れる
異音診断で原因がなかなか見つからないときは、
「この音は、どんな力が加わったときに発生しているのか?」
と考えてみると、思わぬところに原因が見つかることがあります。
今回のように、サスペンションをいくら揺すっても音が出ないのに、発進すると「ギシギシ」と鳴る。
そんな場合には、足回り部品だけに絞らず、サブフレームやその取り付け部など、車体側にも視野を広げて点検することが重要です。
*もし、修理費用が高額になった場合には車を買い替えたほうがお得になることもあります。
「愛車に乗り続けるために高額な修理をするのも愛着ですが、家計や今後のリスクを考えたら『手放す選択』も立派なメンテナンス(対処法)です。廃車手続きもすべて無料で代行してくれるので、一度査定に出してみてから決めても遅くはありません。」
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