「オイル交換をしたらエンジンがかからなくなった」
整備士時代、実際にこんなトラブルで出動したことがあります。
普通に考えれば、オイル交換後にエンジンがかからないということは考えられないです。
オイル交換とエンジンがかからないのは別の原因があるのではと思いました。
「オイル交換後にエンジンがかからない」と連絡
お客様から、
- エンジンオイル交換を自分で行った
- その後エンジンがかからなくなった
という連絡がありました。
最初に考えたのは、
- ライト点けっぱなし
- イグニッションONのまま放置
- バッテリー上がり
などの単純な電気系トラブルです。
念のためブースターケーブルを持ってキャリアカーで現場へ向かいました。
現場で症状を確認
まずイグニッションスイッチを回してみます。
すると、
「カチャン」
というセルモーターのピニオンが飛び出す音はします。
しかしセルモーター本体は回りません。
「やっぱりバッテリーかな?」
と思い、ブースターケーブルを接続して再度始動を試みました。
ですが結果は同じ。
セルモーターは回りません。
レベルゲージを見て異変に気付く
エンジンオイルのレベルゲージを抜いて確認すると、明らかに異常でした。
オイル量が通常の2倍近く入っていたのです。
この時点で原因がほぼ確定しました。
原因はATFを抜いてしまったことだった
FF(前輪駆動)車では、エンジンオイルのドレンボルトとオートマチックミッションのドレンボルトが近い位置にある車種があります。
*FR(後輪駆動)車はエンジンの後方(運転席と助手席の中央の下側あたり)にミッションがあるので物理的にもエンジンオイルとミッションオイルのドレンコックを間違うことはありません。
どうやら今回のお客様は、エンジンオイル交換のつもりでATF(オートマチックミッションフルード)を抜いてしまったようです。
つまり、
- エンジンオイルは抜けていない
- その状態で新品オイルを追加
- エンジンオイル量が異常増加
- 一方でATFは空
という状態になっていました。
なぜセルモーターが回らなかったのか?
エンジンオイルを入れすぎると、余分なオイルが燃焼室へ入り込むことがあります。
するとシリンダー内部にオイルが溜まり、ピストンが圧縮できなくなります。
これを「液体圧縮(ハイドロロック)」に近い状態と言います。
液体は空気のように圧縮できないため、セルモーターがエンジンを回せなくなるのです。
今回もまさにその状態でした。
修理作業開始
まずは入れすぎたエンジンオイルを抜きます。
しかし単純にオイルを抜くだけでは不十分です。
燃焼室内部に入り込んだオイルも除去しなければなりません。
そこで、
- スパークプラグを全数取り外し
- 点火ヒューズを抜いて火花を止め
- クランキングしてシリンダー内のオイルを排出
という作業を行いました。
その後、
- エンジンオイルを規定量へ調整
- 抜けてしまったATFを補充
- オイルで濡れたスパークプラグを清掃
して再始動。
すると無事にエンジンは始動しました。
マフラーから大量の白煙
ただし、エンジン始動後はマフラーから大量の白煙が出ました。
これは燃焼室やマフラー内部に残ったオイルが燃えているためです。
しばらくアイドリングしていると徐々に白煙は減少。
最終的には正常状態まで回復しました。
DIYオイル交換で本当に多い「抜く場所の間違い」
これは珍しいようで、実はDIY整備ではかなりありがちなミスです。
特にFF車は、
- エンジン
- ミッション
- ドレンボルト
の位置関係が近いことがあります。
慣れていないと非常に間違えやすいです。
実際、整備士でも確認不足があると起こり得るミスなので、DIYの場合は特に注意が必要です。
オイル交換時に必ずやるべき確認
DIYでオイル交換をする場合は、オイルを抜いたあとに必ずレベルゲージを確認してください。
本当にエンジンオイルが抜けていれば、レベルゲージにはオイルが付かなくなります。
この確認をするだけで、
- ATFを抜いてしまった
- CVTフルードを抜いてしまった
- 別系統のドレンを開けてしまった
という重大ミスを防げます。
まとめ
今回の原因は、
- エンジンオイルではなくATFを抜いてしまった
- そのままエンジンオイルを追加した
- オイル過多でシリンダー内にオイル侵入
- セルモーターが回らなくなった
というものでした。
DIY整備はコストを抑えられる反面、ひとつ間違えると大きな故障につながります。
特にオイル交換は「簡単そう」に見える作業だからこそ、慎重な確認が大切です。

